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Dear, my dear.

ゼノブレイド2非公式二次小説置き場。 ジクメレ・カグメレ等メレフ中心。 管理人:琉

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所有


 日記にペンを走らせながら、横顔を眺める視線を感じていた。呼ばれてはいないので、目を向けはしない。世界樹へ至る旅の道中、巨神獣船の客室。鏡台を兼ねた書き物机と二台のシングルベッドですっかり手狭な室内は静かで、ペン先が紙の上を引っかく音だけが、かろうじてカグツチの耳に届いていた。時折廊下に人の気配を感じながら、今日の出来事を日記に残す。特筆すべき事件のある日ではなく、思い返すのはレックスとニアが他愛ない口喧嘩をしていたことだとか、雲海から跳ねた大型のモンスターを遠目に見つけたトラとハナがはしゃいでいたことだとか、夕食のスイーツが思いがけず美味しくてメレフと感心したことだとか、今日を逃せば思い返すことも難しくなる些末なことばかり。それらを整理すれば、今日は終わる。
 そんなカグツチを、一足先にベッドに入ったメレフは黙したままじっと眺めている。スペルビアにいた頃も、メレフは時折、夜も更けた時間にカグツチの部屋を訪れて、日記を書くカグツチをただ見つめていることがあった。最初は困惑したものだが、一度理由を訪ねた折には、「日記を書くお前を見ていることが好きなんだ」と率直に言われた。「特に構う必要もない」とも。以降、カグツチも好きにさせている。用がある時にはきちんと名を呼ぶ主人だ。だからまだ名を呼ばれていない今晩は、ただ見られるに任せていた。
 文章を結び、ペンを置く。軽く伸びをして、荷物の中に日記を片付ける。ベッドに入る前に水を飲んでいると、「カグツチ、私も」とメレフが言った。頷き、照明を間接照明のみに落としてから、水の入ったガラスコップ、何の装飾もなされていない、安物のそれをメレフに手渡した。メレフはそれを半分飲んで、オレンジ色の電力光を灯すランプの置かれているサイドチェストに置いた。

「ありがとう。終わったのか?」
「はい」

 何を書いたか聞かれるかと思ったが、メレフはそれ以上を尋ねず、代わりに「カグツチ、こっちへ」と、上半身を起こしながら自分のベッドを軽く叩いた。素直に従い、メレフの隣へ腰を下ろす。マットレスは硬いが、そう悪いものでもない。少なくとも、数日眠るには充分だ。
 客室備え付けの夜着に身を包んだメレフが、読んでもいなかった枕元の本をコップと同じようにサイドチェストに置く。それを読もうとベッドに持ち込んだはいいが、結局カグツチを見ているだけに決めたらしかった。
 それから、カグツチの腰をぐっと引き寄せた。

「きゃっ……?」

 カグツチは小さく悲鳴を上げた。驚いてメレフを見やれば、静謐な瞳と視線が交差する。無意識に息を止めていた。そのまま、どうなさいましたか、メレフ様、と尋ねる間も与えられず、開きかけた唇に噛みつかれた。反射的に身を強張らせたが、メレフはそれ以上を強制する様子もなく、ただ一度だけ舌先が唇をなぞり、かすかな甘い痺れでカグツチの肩を震わせて、呆気なく離れた。
 メレフは身を乗り出し、カグツチの肩に手を掛けた。体重を掛けられれば、カグツチの身体は簡単にベッドに沈んだ。唐突に押し倒されながら、カグツチに大した混乱はなかった。メレフの様子が、この夜のように、静かだったからかもしれない。感情は凪いで、本能は理性の監視下にあることが見て取れた。そしてメレフは、意味のないことはしない。彼女なりの理屈と道理が、メレフの行動の裏には必ずある。むしろ、説明できる根拠がなければ、一切の行動に移せない人なのだ。カグツチはその意図を、汲み取るか、それが無理なら教えてくれるのを辛抱強く待つのみだ。
 黒髪が重力に負け、メレフの肩からカグツチの首筋へ落ちかかった。ほんの少し遊ぶ毛先が、柔らかく肌をかすめて、くすぐったい。メレフの指が、カグツチの夜着、いまメレフが着ているものと同じそれのボタンを捉えた。元々開けていた第一ボタンを通り越して、第二ボタンがゆったりと外される。カグツチは特に身じろぎもしないまま、ことの成り行きを黙って見ていたが、指が第三ボタンに触れてなお大人しくしていると、メレフが戸惑ったように首を傾げた。その拍子に髪が揺れ、肌をくすぐり、その刺激に、やっとカグツチはぴくりと頬を動かした。

「怒らないのか?」

 とメレフは言った。

「怒ったほうがよいですか?」
「いや、そういうわけではないのだが」メレフは困ったように眉を寄せる。「抵抗くらい、しないのかと思って」
「そう言われましても、抵抗する理由もありませんし」
「……これでも?」

 メレフの指が第三ボタンを外す。第四。第五。次々に。ついにすべてのボタンが外され、夜着をはだけさせられる。手のひらが腹に触れ、臍の付近をくすぐられる。生き物のように母体から生まれるわけではないのに、なぜか人と同じように臍のある自身の肉体を今更のように不思議に思いながら、「はい」とカグツチは言った。優しく肌を撫でられる感触に、ぞくりと背筋を駆け上がるものを覚えながら。

「怒らないのか」メレフは再度問うた。「私はいま、お前に無体を働いているんだぞ」
「メレフ様に触れていただいて、どうして怒る必要が?」

 カグツチは手を伸ばし、メレフの頬に触れた。そのまま黒髪に指を差し入れ、丁寧な所作で梳いた。気持ちよかったのか、メレフは「ん……」と目を細めたが、はっと我に返ると、お返しと言うように耳の傍で束ねていたカグツチの髪をほどいた。自分の髪がシーツに散らばるのを感じながら、カグツチはメレフをじっと見ていた。怒らないのかと問うくらいなら、もう一度キスをして欲しかった。
 思いが通じたのか、メレフはカグツチの腹の上に跨ると、そのままキスをした。今度は舌の悪戯付きだった。舌先が唇を舐めたのを合図に、カグツチは口を開き、メレフを歓迎した。柔らかで敏感な肉が絡み、舌先と舌先が触れ合うたびに、カグツチは肩を震わせた。小さな音が、静かな部屋で、口腔から体の内側を通って耳の奥に直接聞こえる。

「ん……っぅ……」

 重なる唇の隙間から、くぐもった吐息を漏らすカグツチの身体を、メレフの手が丁寧に撫でていく。指先が鎖骨をなぞり、体の中心線を辿って臍に行き着くと、一度離れて、今度は脇腹をくすぐり、その拍子に跳ねた背中とシーツの間に手を差し入れる。メレフの手が自由に自信を弄れるように、カグツチは自ら背を反らした。

「嫌なら逃げていいんだぞ」

 唇を離して、優しく名前を読んでくれてもいいものを、メレフが告げるのはそんな言葉ばかりだった。

「どうやってです? メレフ様が私の上にいらっしゃるのに」
「お前に力を送らていない私と、お前なら、お前のほうが強いだろう。ブレイドなのだから」
「ご冗談を。メレフ様には敵いませんよ。それに、メレフ様のお傍以外に、どこに行けと仰るのですか」

 カグツチはくすりと笑って、唇の付近を撫でていたメレフの右手首を取り、自身の胸に触れさせた。メレフの手が一瞬だけ慄いたのが下着越しに伝わってきたが、やがてメレフはやわやわと胸を刺激し始める。揉むと言うより、撫で、さすり、大きさを確認するような動きだった。無秩序に胸を捏ね回していたメレフの手が、就寝用の布製下着の上から少しずつ硬くなり始めていた先端に触れたとき、カグツチからは勝手に鼻にかかった甘ったるい吐息が零れた。カグツチの反応を見逃さなかったメレフの手が、愛撫を乳房全体から乳首へと集中させ始める。敏感な箇所を布越しに引っ掻かれ、カグツチの頭が痺れていく。布越しの摩擦がたまらなかった。

「ふっ……ん、…ぁっ……、……あ……」

 仰け反った喉に舌が這った。熱い、と思った。自身の纏う炎より、メレフの体温を高熱に感じた。そんなはずもないのに火傷してしまいそうだった。

「……あぁ……っ」

 ブラジャーをたくし上げられ、上向いた乳首が露出する。メレフはそれに優しく、硝子の破片を摘み上げるように丁寧に触れた。両の頂きを共に親指で捏ね回されたカグツチの喉から、ひっと悲鳴のような音が鳴る。歯の根本が、歯の奥が痺れる。呼応するように、メレフの喉も、満足そうにくつりと音を立てた。

「カグツチ……。綺麗だ、とても……」
「あ……メレフ、様……」

 少しずつうまく動かなくなっていく両手を上げて、カグツチはメレフの胸元に触れた。先程されたのと同じようにしてメレフの夜着のボタンを外す。2つほど外したところで、乳首をきゅっと、人差し指と中指で摘まれた挙げ句に捻られて、「きゃ…ぅんっ!」と、カグツチは仔犬のような鳴き声を上げた。当然、3つ目のボタンを外すことは失敗する。カグツチが大きく呼吸する間に、メレフは自身で上下の夜着を脱ぎ去った。下着姿になったメレフは、先程押し倒されたまま、枕に垂直に横たわっていたカグツチを促してきちんとベッドの上に乗せると、ショーツ以外のすべての衣服をカグツチから剥ぎ取り、もう一度優しく押し倒した。伸し掛かられて肌と肌が直に密着し、鍛えてなお柔らかさを残す肉体の重みと、滑らかな肌がこすれる感触は、カグツチをひどく満足させた。

「いいのか?」

 メレフは三度、カグツチに問いかけた。今夜の彼女は、何を迷っているのだろう。何かがメレフの心に淀み、沈んで、それを一掃するために、メレフはカグツチを抱こうとしている。推測は簡単にできるのに、肝心要のそれが何かが、カグツチには分からない。だから微笑んだ。たとえ理由がなくたって、カグツチはメレフを拒絶などしないのだから、彼女がメレフに返せるものは、結局のところ、受容だけだ。

「何がですか?」
「カグツチ……」
「……して、くださらないのですか?」

 首を傾げてみせる。ここで打ち止めにされるほうが、正直辛いものがある。メレフは軽く目を見開いて、ふっと息を吐き出し、「続けるぞ」と囁いた。
 メレフの手がカグツチの下半身へと伸びた。無意識に身体に力が入り、その場所への刺激を覚悟したが、触れられたのは内腿だった。拍子抜けしながら、しかし内腿から足の付根をメレフの手が往復し、四本の指先が無造作にくすぐると、先程胸を触られていたときに劣らぬ痺れが背骨を伝って脳髄を震わせた。ぞくぞくと駆け上がる快感が、身体から緊張を勝手に追い出していく。力の抜けた脚がメレフに無造作に開かれ、形ばかりの抵抗さえ出来ずに、ショーツ越しの秘所を主人に晒した。
 カグツチが吐き出したもので、下着はとっくに湿っていた。ついに触れたメレフの指にも、それは伝わったのだろう。メレフはふっと頬を緩めると、愛おしそうにカグツチを見つめた。途端に恥ずかしくなって、カグツチはふいと顔を背ける。湿気た布越しに被裂を上下に擦られ、カグツチはぴくんと肩を震わせると、ひどく熱い息を吐きだしながら、どうにか声を堪えた。

「……あっ、…ぅ、……んんっ……。……はあっ……!」

 しかし持続的に与えられる刺激に声帯は別の生き物のように勝手に震え始め、カグツチはせめてと口元を右手で覆った。メレフの手はカグツチの手首を掴むと、その手を剥がしてシーツに縫い付けた。ならばと左手で口を覆えば、メレフは困ったように笑った。その手を引き剥がすには、メレフの手の数ではもう足りないのだ。

「カグツチ」
「ぅんっ……。す、すみません……。ですが、あっ、恥ずかしくて……」
「分かるが、可愛いからもっと見たい。顔をよく見せてくれ、カグツチ」
「もう……ん、っ、意地の悪い、方ですね……」
「だってほんとうに可愛いんだ。いつも気高いお前が、私の手で、こんなに……」

 カグツチはゆるゆると左手をシーツに落とし、躊躇いながらメレフへ顔を向けた。メレフの左手が頬を包み、右手も自由になったが、カグツチはその手を動かそうとはしなかった。羞恥心が熱を帯びてコアクリスタルを中心点に全身へと広がったが、それ以上にじっと自身を見つめるメレフの瞳に、カグツチは我知らず喉を鳴らしていた。察したメレフの顔が近づく。重ねるだけの口付けをした。唇の柔らかさを意識したとき、愛液がとろりと吐き出された。
 メレフの指がクロッチをずらしてとうとうその場所を直に触れたときも、小さく悲鳴を上げながら、顔を背けることはしなかった。できなかったのだ。そう命じられたからではなく、欲情するカグツチを見て同じように欲情するメレフの顔を、カグツチもまたもっとよく見ていたくて。それでもぬるつく秘裂が受ける刺激の甘さに、カグツチは喉を仰け反らせた。そこにメレフが噛み付いて、柔らかくだが歯を立てた。

「……大丈夫。ブレイドの回復力なら、朝には消えるさ」

 カグツチが何かを言う前に、メレフは言い訳のように、囁いた。
 メレフの手によって下着を剥ぎ取られたとき、カグツチは自ら腰を浮かしてそれを手伝った。臀部を数度撫で付けた後、しばらく放置されていた乳首の片方を口に含みながら、メレフは中指で秘所に割れ入った。まだ中には入り込まず、すっかり濡れそぼった肉の崖を指先がくすぐる。激しさはなかったが、二箇所から同時に与えられた快感に、カグツチは懸命に息を詰めた。そうでもしないと、あられもなく喘いでしまいそうだった。

「ん……ふっ……ああっ……、……はあっ、……っあ!」

 舌先が、屹立した先端の周囲を器用に一周し、無造作に弾く。その拍子に溢れた蜜を、くち、くち、と音を立てながら、細い指先が掬って、震える肉芯にまぶすように刺激する。肩が跳ねる。膝を立てて開いた脚が、快感から逃れようと勝手に動く。脚の間にメレフの体があって、逃れることは出来なかった。ならばと腰が揺れたのは、逃げたかったのか、さらなる刺激が欲しかったのか、カグツチ自身にも分からない。自分が腰を揺らしていることを、カグツチは全く意識できていなかった。

「……ひっ……あ、ああ……あー……っ、んんっ! あ、……ぇ、メレフ、さまぁ……っ! ひゃうっ……ん」

 瞼の裏で、ちかりちかりと快感が弾ける。メレフの手は一貫して優しく、柔らかく、カグツチを気遣っていた。激しく攻め立てる真似を、今晩のメレフはただの一度もしなかった。だからこそ、とろ火で炙られ続けた性感は、それと気付いた時にはもう、後戻りができないほどに高まっていて、カグツチを戸惑わせた。何もかもが気持ちよかった。メレフの舌や指はもちろん、触れ合う肌が、肌に落ちる髪が、時折胸元からカグツチの顔を窺う視線が、皮膚に感じるメレフの呼吸のひとつひとつさえ。
 ついにメレフの指先が、倒れた蜂蜜瓶のように愛液を零し続けるその場所に触れた。く、と、浅い位置に挿し入れられて、カグツチは期待から胸を仰け反らせた。しかしメレフはその指を引いた。胸からも口を離す。戸惑っていると、メレフはカグツチと目を合わせてにっこりと微笑んだ。物欲しげな顔の自覚はあったカグツチは、にわかに羞恥心が沸き起こり口元をきゅうと引き結ぶ。メレフはそんなカグツチを、決してからかったりしなかった。柔らかく頭を撫で、優しく瞼にキスを落とした。

「なあ、カグツチ。……お前は、誰のものだ?」
「え……?」

 唐突に問いかけられ、カグツチは荒い息を整えながら、思わず疑問の声を上げた。それは、問いかけの内容そのものではなく、メレフの声が、普段の自信に満ちて凛とした響きではなく、先程までの甘く優しいものでもなく、不安そうに揺れていたからだ。それはカグツチの羞恥を煽るための言葉ではなかった。屈服を求める類のものではなおさらなかった。メレフは微笑んではいたけれど、眉は下がり、唇の角度に迷っていた。知らない土地で迷子になった子供が、きっとこんな顔をする。
 むしろカグツチのほうが、完璧な微笑を浮かべることが出来た。

「私はあなたのものです。……あなただけの、あなたのための、私です。メレフ様」

 口にすることに躊躇いはなかった。だってそれは、カグツチにとって、あまりに自明で、くだらないほど当然の事実だったから。
「……そうか」と、メレフは吐息のように応えた。

「ね、メレフ様。誤解しないでくださいね。私、今だからこんなことを言うわけではないのですよ。明日の朝でも、夕食時でも、たとえ他に誰かがいる場でも、私は同じことを言えるのですからね」

 メレフの質問は、フェアとは言い難い。いいだけ情欲を煽られて、肉体に性感が積み重ねられて、それがいよいよ解放されると期待したタイミングでの問い掛け。面白がって屈服の言葉を求めているのだとカグツチが思い込んだところで、メレフがそれを責めることはできない。それでもカグツチは、愛しい主人の意図を、痺れる頭で、きちんと受け取った。だからメレフにも、取り違えないで欲しかった。慰めて欲しくて、一時的に口走るような、安い台詞ではないのだと。

「そうか」メレフは目を見開いて、そして、じわりじわりと口元に喜悦を滲ませて、目を細めた。「そうか。うん。そうだな。……すまない」

 何がですかと問う前に、メレフの唇が降ってきて、言葉はあえなく彼女ののどへと吸い込まれていった。
 それきりメレフはキスを解かなかった。
 くぷりと中指が内側へ侵入し、唐突な刺激にカグツチは息を詰めた。身体は勝手にメレフの指を締め付けて嬉しそうに咥え込んだ、俯瞰する視点でそれを感じながら、背筋をびりびりと走る性感にカグツチは脚を跳ねさせた。丁寧に丁寧に内部へ埋め込まれていく指に、痛みや圧迫感はなく、やっと全て触ってもらえた安堵が全身を包んでいた。指が抜かれていくときには切なくて仕方なくて、再び入り込むときには喜悦が満腔に満ち満ちた。重ねた唇からは舌が差し込まれ、カグツチのものと絡んだ。蹂躙の意志をこれっぽっちも感じない、溶け合うためのものだった。

「……ふっ……ん……っ! っ、っ……ん! ぅ、ん……」

 くぐもった声ばかりが上がった。口さえ自由なら、もうなりふり構わず喘いでいたと思う。出るはずだった声は余さずメレフに飲み込まれ、最も皮膚が薄い箇所同士の接触は、カグツチの弱点を逐一メレフに伝えた。人差し指を加えた二本の細指に、弱い箇所を的確に刺激され、飽和しそうな快感が辛いと一瞬でも思えば責めは弱まり、余裕が出れば再び突かれた。ぐちぐちという音がした。そうして高められた快感が、ちかりちかりと瞼の裏で幾度も弾けた。思考は溶けて、言葉はほどけた。震える両手をメレフの背に回し、必死にしがみついた。舌を絡ませ、せめてとメレフの上顎を舐めた。びくりとメレフの身体が強ばるのを嬉しく思う暇もなく、カグツチの身体もまた大げさに跳ねた。刺激する指は止まらぬまま、メレフの親指が、膨張した果実を捉えたのだった。息を吸おうとして、出来なかった。唇はまだ塞がれていた。首を振って逃れれば呼吸も楽になっただろうが、カグツチからその発想は失われていた。唇に感じる熱を失いたくなかった。息苦しさは募ったが、それさえ気持ちが良かった。メレフの与える何もかもが、カグツチには嬉しかった。
 がくがくと全身が震えた。筋肉が収縮し、足の甲が勝手に伸びていた。強く閉じた瞼から涙が眦を通ってシーツに落ちた。舌が開放され、唇は重なったまま、メレフが「大丈夫だ」と言った。音はなかったと思う。けれど確かに伝わった。唇の動きで。あるいはそれさえ超越した何かで。

「ぅ、ん、ん、ふっ……んん――――――っ!」

 そして一瞬、何もかもが分からなくなる。背が仰け反り、つま先がぴんと伸び、全身から発汗する。その全てが、カグツチの意識の外で起きた。
 かろうじて記憶に引っかかったのは、その瞬間、唇を合わせたまま、名を呼んで、名を呼ばれたことだけだ。
 思考を取り戻したとき、息はまだ荒かった。メレフはカグツチの隣に横たわり、カグツチの頭を撫でていた。撫でられる気持ちよさをぼうっと受け取りながら、カグツチはメレフを見た。目が合って、カグツチはにこりと笑い、メレフは視線を逸らした。

「……今日は、どうされたのですか?」

 問いかける声はかすれていた。控えめに咳払いをすると、メレフはサイドチェストに置いていたコップを手に取り、一口含んで、カグツチに飲ませた。二回ほど大人しく受け取り、三度目は遠慮した。その分は自分で飲み干しながら、メレフは「その」と言った。

「怒らないか?」
「怒らないと、何度も言いましたよ、お忘れですか?」

 ここで怒るならとっくに怒っているし、なんなら最初の押し倒す手を跳ね除けている。
 メレフは再びカグツチの隣に横たわり、腕を回して抱き寄せながら、決まりが悪そうに呟いた。

「お前が、間違いなく私のものだと、確認したくて」
「……何かあったのですね?」

 それは問い掛けでなく断定だった。同調して、共に過ごして、色々なものを共有して、ずいぶん経つ。メレフが何のきっかけもなく、カグツチとの絆を疑うわけがない。誰かがカグツチの名を出してメレフを傷つけたのだ。堅固なメレフの心の、柔らかい部分にカグツチがいると知って。それに気付けなかった自身が腹立たしい。
 メレフは詳しくを語ろうとしなかった。ただ、一言、

「お前は、ほんとうは、私のものではなかったはずだろう。順番を間違えなければ」

 と苦笑した。それだけで充分だった。
 帝国の宝珠たるカグツチは、本来的にスペルビア皇帝をドライバーに頂くブレイドだ。そういうことになっている。だが、メレフは皇帝ではない。皇帝に、なりそこなった人。
 メレフのブレイドでないカグツチ。その可能性は存在する。ネフェルがもう少し早く生まれていれば。あるいはメレフがもっと遅く生まれていれば。他に玉座の資格を持つ男児が存在していれば。それらの世界のカグツチは、メレフに自分を許さない。キスも、触れられることも、それ以上は当然。
 メレフは、あり得た未来を追い出そうとしたのだ。触れることで。押し倒すことで、抱くことで。だってそれを許すのは、メレフのブレイドであるカグツチ以外にありえないから。だからしつこく確認したのだ。怒っていないか。拒絶しないか。嫌ではないか。――そんなことはないと、確信しながら。本当に拒否すると少しでも疑っていたら、メレフにこんな暴挙は出来ない。失敗したらカグツチが傷つくばかりの賭けなど、メレフは絶対にしない。

「ずるい人」カグツチは呟いた。「私があなたを受け入れることなんて、ちゃんとご存知だったくせに。あんな土壇場でないと、私はあなたのものだって、言わないと思っていたのですか? どんな可能性があったにせよ、私はもう、とっくにあなたのブレイドで、だから、あなたのいない私なんて、考えられないのに」
「ああ。だから、すまない。……許してくれ」
「それも。ほんとうにずるい人ですね。私があなたを許さないなんてことが、あると少しでもお思いなのですか?」

 カグツチは人差し指でメレフの唇を撫でた。メレフがくすぐったそうに目を細める。

「メレフ様。条件を出させていただいても?」

 見つめ合う。メレフはまだばつが悪そうに浮かべるべき表情に迷っていたが、カグツチがひとつ息を吐きだして笑みを深めると、安心したように頬の緊張を緩めた。ついでに唇をなぞっていたカグツチの指先をぺろりと舐める。「もう」カグツチは調子に乗ったメレフの頬に手のひらを添えた。

「別に、受け入れて頂かなくたって、私は怒りませんし、許さないなんてこともありませんけど」そう言い置いてから、カグツチは微笑む。「ねえメレフ様。私はあなたのものですよ。でも、あなたは私のものでないことも、知っています。そして、そうあって欲しいとも、言いません」

 帝国と、使命のために生きる人。カグツチのためには生きてくれない人。それでいい。カグツチはそんなメレフを、いや、どんなメレフだって、愛している。
 だけれどたまには、運良く口実が降ってきた夜くらいは、我儘を言ってもいい思うのだ。

「でも、だから、メレフ様。夜明けまでは、私のあなたになってください。私だけのメレフ様に」

 そして、キスをした。
 重ねただけの唇が、音もなく、いいよ、と言った。


2018/09/09

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