140字SS_201802 ジクメレ【嘘を暴く】衝動的に口付けて気付く。「もしかして初めてやったか?」「そんな訳あるか」「なら特に気ぃ遣わんでええな?」もう一度奪う。緊張して目を白黒させて、明らかに初体験なのに嘘を吐く方が悪い。深く絡ませようとして力一杯どつかれた。「舌は聞いていない!」ジークは噴き出す。メレフそれ面白すぎや。【唯一の、嫌い】「では、ここでさよならだ」 旅の終わり。呆気なく言い置いてメレフは遠ざかる。子供達を順に見て、最後にジークへ微笑んだ。その瞳に一瞬揺らめいた色。好ましく思う彼女の、その目が唯一嫌いだった。物分かりよく何かを押し殺して光る。それを知って手を伸ばせなかった、自分が尚更嫌いだった。【お前ごときに、救えるものか。】ジークは世界を救いたかった。だが当の世界は彼には救われたがらずに、お前如きに出来るものかと嗤う。諦めてなるものか。しかし為せた事はなく、無力を実感するばかり。けれど。「メレフ、お前にも力を貸して貰うからな」「努力しよう」力強い笑み。それだけで、ジークを蝕んでいた呪いが溶けていく。【美味しそうに見えた、なんて末期だ】ボディラインのはっきりした柔らかい顔付きの女性が好みだった。ちょうどメレフとは対極の。 (油断したなぁ) ジークの薦めた英雄アデル焼きを齧る姿に思う。いい男友達のつもりがとんだ誤算だ。 「何だ?」 「いや、美味そうやな思うて」 その唇が。湧いているのかとぶん殴られそうなので黙っておく。【偶然と必然を重ねて】出会いは偶然。同行は成り行き。共通項の多さが共感を友情に変えたたのは半ば必然。ならばその先は。 「ワイら割と相性ええと思わんか?」 「戦闘はな」 「その他は?」 「知らんよ」 ジークの声をメレフは受け流す。繰り返す問答。この距離をどうしたいのか。分からないまま今日を食い潰している。【オオカミさんの味見】煽って飲ませて潰したのはジークなので、責任を取って連れ帰る。正体を無くしたメレフの足取りは危うく、背負うかとその横顔を見たのが悪い。軽く開いた唇が酷く鮮やかでそのまま噛み付く。 送り狼、そんな単語が浮かぶ。食うんやない、ちょっとした味見や。誰への弁明なのか。甘い酒の残り香がした。【もう顔も思い出せない】古ぼけた写真を見てどんな顔だったか思い出す。真っ先に忘れたのは声で、遂に容姿がわからなくなる。人間として天寿を全うした彼女の一方でジークはまだ若い姿で生きていて、それを不幸とは思わない。ただ。 「何で二回もお前を失わなあかんのや」 なあメレフ。呟く。この名前だけは忘れたくない。【もっと近くにいたい】個人としていくら好ましくても、結局他国の王族皇族だ。共感だけが育ち信頼に至らず距離は曖昧。「旅が終わったら、スペルビアに来ないか」「併合は御免やぞ」「だろうな」ただのジークとただのメレフであればこの会話も別の意味を持っただろうか。もう少し近づいてみたい。それだけのことが叶わない。【だいたいあいつのせい】静かに、だが、朝からメレフの機嫌が悪い。「早く謝んなよ」ニアが小突いてくる。「何でワイに言うんや」「メレフ怒らせるのなんか9割亀ちゃんで1割サイカだろ」どうせまた余計な地雷踏んだんだろと半眼のニアに、図星なだけに何も言えない。「仲良いのはいいと思うけど」「大人をからかうなんやない」【忘れてあげる】曖昧な関係に名前を付けたくなり、告げた言葉が余りに薄ら寒くて驚いた。ジークはそんな顔をしていた。 「すまん。間違えたわ」 「だろうな」 「忘れてくれ」 「そうしよう」 頷いた側から確認のために彼の言葉を繰り返してみる。 「愛している」 やはり薄ら寒い。その結論にメレフは何故か満足した。【ただの友達は、こんなこと、しない】初めての友は新鮮で思いがけず日々が楽しい。程よく酒の入った夜道でメレフは零す。「それは何よりや」言いながら腰に回ろうとした腕を払った。「何すんねん、友達やろ」「ただの友人はこんなことしない」「流石に騙せへんか」ジークはさして残念そうでもない。かくして曖昧な距離は今日も保たれる。【名前を教えて】そういえば自己紹介がまだだったと旅も終わりに近づいて今更気付く。「改めて。メレフ・ラハット。スペルビア特別執権官だ」「知っとる。ジーフリト・ブリューネ・ルクスリアっちゅーもんや。ジークって呼んでくれ」「知っている」気恥ずかしさに笑い合う。「これからよろしく」「これからも、やろ」【AM03:00】深夜3時のアナターシス廊下でメレフと行き合う。曰く「ヒカリとザクロに巻き込まれた」らしい。「取り敢えず戦士の心得を説いてきた」ジークはつい噴き出した。いかにも彼女らしい。「恋など不要だ」「つまりワイも脈なしか?」からかい半分に聞く。「さあ、どうだか」とだけ残してメレフは去った。◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆カグメレ【悪夢はもう見ない】引き攣れた悲鳴を上げて目を覚ます。「どうされました、メレフ様」起こしてしまってすまないと笑いたいのに声が出ない。「悪い夢でも見ましたか?もう大丈夫ですよ」カグツチに抱き寄せられる。うんと幼い頃のように。そう、大丈夫。悪い夢はもう去った。逆夢だ。お前がコアに戻ってしまう夢なんて。【たったひとつのエンディング】どんな風に生きたいか。意識せず耳が拾った会話に、メレフはふむと考える。自分はどうだろう。どこかに嫁ぐか、婿を取るか。国に仕え続けるか。「メレフ様?」視線に気付いたカグツチの声。どんな未来も彼女が必ず傍にいて、命の終わりを共にする。どうやら、ハッピーエンドは確約されているらしい。【それが恋とも知らないで】カグツチは帝国のブレイドで、自分は一時的な所有者に過ぎない。そんな事実は最初から弁えているのに。「お前は誰のものだ」聞いた瞬間後悔する。何を言っているのだろう。「私は貴方のものですよ、メレフ様」だのに迷いない即答が嬉しい。どうしたのですかと笑う彼女に、何でもないよと首を振る。【瞳は雄弁だ、】昔から自分を隠すことが得意な人で、そのくせ瞳は雄弁だった。そんなメレフの内心を読み取るのはカグツチの役目で、今回も同じように気付いた。多分本人より先に。ルクスリアの王子に向けるその目、カグツチに向けてくれるものによく似て少し違う色。少し寂しい、なんて、つまらない嫉妬にも程がある。【最後は私と】ブレイドは看取ることも見送ることも出来ない。ドライバーの死さえ認識できずコアに戻ったブレイドを何人も見てきた。「それが私たちブレイドですから」色褪せたコアを手に目を伏せたメレフにカグツチは言う。「お前は最後まで私の傍に」「はい」いつか来るその時に、きちんとさよならを言えるように。【隠し通してみせるさ】旅の最中に芽生えた淡い心を、隠し通してみせるとメレフは笑う。 「こんな感情はスペルビアの為にならない」 「国益には適うと思いますが」 「向こうが望まないよ。……それくらい、知っている」 寂しげに笑う頰に触れる。何の代わりにもなれない。メレフが欲しい青は、カグツチのこの手ではなかった。【ずっと好きだよ】「メレフはカグツチを愛しているも?」トラが聞く。何事かと思ったが、曰くドライバーとブレイドの絆のことのようだ。「ああ、愛しているよ」「やっぱりも!」何故か嬉しそうに跳ねるトラを撫でながら言い切る。「これからもずっとな」少し離れた場所でどうせ聞いている彼女に、ちゃんと届くように。【時間よ止まれ】母のようで、姉のようなひとだった。ブレイドだから、ひとという表現は変かもしれないが。 「やっとお前に追いついた」 20を超えて何度めかの誕生日。漸くメレフはカグツチと対等になった。けれどそれは一瞬で、やがて彼女を妹のように、そして娘のように思う日が来る。時よ止まれと、無為に願った。【寂しいなんて言えない】一人で寝込む高熱の夜に慣れていた。養父たる皇帝は多忙の身、侍従たちも距離を弁えて、それが当然だった。だのに悪夢に起きて伸ばした手を握る体温がある。「大丈夫ですよ、メレフ様。カグツチはここに」側にいてとは言えなかったのに、真夜中でも付きっきりの優しい声。今迄寂しかったとやっと知る。【君という名の】「ブレイドの実態は、人の為に在れ、か」シンの慟哭をメレフが呟く。「私はそれで良いと思います」メレフは意外そうな顔をするが、彼女の為に存在しない自分が想像できないのだから仕方ない。今ここにいるカグツチの、今の意識の名前はきっとメレフ・ラハットで、それ以上の喜びなど彼女にはなかった。【嘘吐き、どの子?】うんざりした顔で縁談を跳ね除けるメレフは、昔から嘘と紙一重の強がりばかりだ。「心に決めた相手がいる、と公言してしまって良いのでは?」「…なんの話だ」成熟した今もそう。微かな会話の間がその証。「私の恋人は仕事だ。お前もいるしな」ほら、またそんな嘘を。声にはせずに、カグツチは微笑む。【誰も欲しくない】「未来の自分を考えることはあるのか?」少し考え、カグツチは首を振る。「ないですね。次のドライバーが欲しいとは思いませんし」どうせまた同調するのだろうが。「どのみち今の私はメレフ様と共に消えますので。お望みとあらばあの世まで共に参りますよ」「来なくていいよ」メレフは嬉しそうだった。【来世でもよろしく】もし生まれ変わったら、なんて話で盛り上がる。「メレフは次もスペルビアだろ?」ニアが聞く。「普通の人として暮らしたいとかはない?」「いや、次も皇室がいい」メレフは言い切る。「そうしたらきっとまたカグツチのドライバーになれる」「お待ちしております」そんないつかが、本当に来ればいい。◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ネフェメレ、他【犠牲はつきもの】作戦に犠牲は付き物。「ですがメレフ殿がいれば違いましょうな」元老院議員が髭を撫でる。声に潜む悪意と嘲り。あわよくば消えてくれぬかと。 「お願いします、特別執権官」 「承知しました」 それを分かって命を下す。兵は守らねば。そしてメレフは守れぬまま、ネフェルには無力感だけが降り積もる。【愛したかった】女狐。帝国の犬。それらに混じって皇帝の愛人が彼女の蔑称にあるとネフェルが知った時、二人の関係は皇帝と特別執権官でしかなくなり、そして名前が呼べなくなった。「お疲れ様でした、特別執権官」労う今もそうで。早くこの恋が潰えればいい。そうしたらせめて従姉弟として、メレフと呼べる筈だった。【ずるい人】冷徹な帝国軍人と思っていたのに、話すと案外印象が柔らかい。「昔弟と過ごした場所に似ている」イヤサキ村の景色をそう評す目の優しさとか。「弟いるんだ?」「ああ、自慢のな」微笑むメレフにうっかり姉が重なった。あ、それずるい。そんな目をされては、ニアの中の『嫌い』がどんどん薄れてしまう。【もう一度、恋をしよう】「解き放つのです、メレフ・ラハット」そう背を押したのはネフェルなのに自由を得て彼女はより魅力的になり、手放した事を惜しむ自分がいた。今更縛り付ける気はない、けれど、もし全てが終わった後に彼女が心から自分の傍を望んでくれたなら。「その時は、もう一度」貴方を好きになっていいだろうか。【花束を抱えて】もう十年近く昔の話。サンセットクローバーで小さな花束を拵えた。どきどきしながらメレフに手渡して、「ありがとう、ネフェル」と頭を撫でられたのが途方もなく嬉しかった。「貴方に似合うと思って」「恐縮です」今ムゲンローズを手渡して、受け取る指さえ触れ合わない。クローバーの日に、戻りたい。【わるいおとな】忘却の封地。夜に包まれて音もない。「従姉さんは悪い大人ですね。こんな場所に私を連れ出して」「窓から脱出されたら困りますので」笑うネフェルにメレフは硬い顔で古い前科を指摘する。「失礼。悪い子は私でしたか」全くその通りだ。姉と二人きりになりたくて、人気のない場所に連れてこさせた。 [7回]PR